アメリカ・トランプ政権と習近平国家主席の中国。
この二つの2大国家間で繰り広げられる制裁関税の応酬が続いている。
これまで第一弾、第二弾と追加関税が発動され、今回2018年9月で第3弾、しかも規模はこれまでの合計の4倍にもあたる2000億ドル。今後アメリカと中国のこの追加関税、報復措置はどこまで行くことになるものか。
単なる貿易摩擦以上の貿易戦争ともいえるこの追加関税措置、そもそもの制裁の原因は何か、なぜこういった事態になっているのかを、ここで簡単に分かりやすく解説して行こう。
アメリカ・中国、追加関税合戦の発端
2018年、アメリカと中国は7月6日を第一弾とした追加関税合戦、といった貿易摩擦以上の貿易戦争、といった局面に突入している。
この発端は、貿易には世界貿易機関(WTO)のルールがあり、中国の貿易慣行は明らかに違反が多い、と考えられていること、更にアメリカにおける対中国の貿易赤字が異様に膨らんでいる、という2点に集約されるだろう。
そもそもトランプ大統領は、2016年大統領選挙期間中に中国に対し貿易不均衡を問題として取り上げている。
中国では外資系を含む民間企業にも中国共産党の下部組織を置くような圧力があるとされ、外資100%の企業でも経営に共産党が介入する、といった可能性を否定できないという見方が強い。勿論こういったこともWTOのルールから逸脱している。
中国ではなくアメリカが自国を守るためだけの保護貿易主義をとっている、日本と欧州が連携しアメリカの保護貿易を封じるべきだ、といった意見もあるが、中国側がまず保護貿易主義的な措置をとってきた、とみるものも多い現状。
中国はWTO加盟に2001年12月に加盟している。
中国がWTOに加盟した際、欧米などの国々は『中国もこれで変わる』と楽観視しており、共産党介入に対する歯止めを十分に用意していなかった、という見方もある。
アメリカの歴代政権を見れば、中国のWTO違反に対して特に強硬的な措置はとっていない。ところがトランプ大統領は選挙中にも話を出し始め、アメリカ側の利害を考え過去の消極的な対応を覆すかのように断固とした措置をとり「中国の貿易慣行を変えさせる」、ということで追加関税などの制裁措置に乗り出した。
軍事面でも経済面でも、世界一をめざす中国と米国の覇権争い、メンツ争い、という様相を呈している、と言っていいようだ。
追加関税、報復措置のスパイラルへ
こういった経緯から、現状では、米国、中国双方の追加関税合戦が第3弾まで来ている、という局面。2018年3月以降の大きな流れを見れば以下の通り。
対中貿易赤字の削減要請
2018年3月上旬。トランプ政権が中国に対し、
- 米国の対中貿易赤字を1千億ドル(約10兆6千億円)減らせ
と中国に要請。
米国の2017年の対中貿易赤字は3752億ドル。
主な要因は中国からの最大輸入品となっている電気・IT製品(iPhoneなどは中国で組み立て、そこから世界中に出荷)と見られているが、米国の貿易赤字全体のおよそ半分が対中貿易赤字で占められている。
トランプ大統領は2018年3月7日、ツイッターに「貿易赤字を10億ドル減らす計画の策定を求めた。中国がどのように返答してくるか楽しみだ」などとつぶやいていた時期。
追加関税の原案発表
それまで、中国の習主席とは一帯一路への協力で一致、北朝鮮の非核化に向けた北朝鮮と米国との対話も「制裁で中国が大いに助けてくれたから」「中国は引き続き助けてくれる」など、中国との関係を重視していたトランプ大統領も、「対中貿易赤字はどの国も経験してない史上最大の貿易赤字」として問題視。
中国の知的財産権侵害などを理由に、米通商法301条(不公正な貿易慣行に対して制裁できるとするもの)に基づき、2018年4月3日に以下を公表。
- 中国製品に対して25%の追加関税の原案を発表
(対象約1300品目、総額500億ドル(約5.3兆円)相当)
翌日4月4日には、中国から報復措置として、
- 米国産106品目(大豆や航空機など)に25%の関税をかけると発表
双方ともこの措置はWTO違反となっているようだ。
鉄鋼に25%。アルミニウムに10%の追加関税
2018年5月31日、アメリカは通商拡大法232条(安全保障上の脅威を理由に貿易相手国・地域に対する制裁を可能にする法律)に基づき、
- 鉄鋼に25%。アルミニウムに10%の追加関税措置をカナダ、メキシコ、欧州連合(EU)に対して行う事を発表
これは、中国が主導する鉄鋼とアルミニウムの世界的な過剰供給を問題視した結果の措置となり、中国の企業が大きな影響を受けることに。
中国は報復措置として、
- 米国からの輸入品(ワインやナッツ類など)に総額30億ドル相当の追加関税
を導入。
対中国の追加関税:第1弾
そして2018年7月6日、トランプ大統領いわく「習主席との友情や対中関係は非常に重要でも、米国との長年の公平ではない貿易は放置できない」ということから、アメリカは中国に対する追加関税の第一弾となる、
- 中国製品818品目に対し、340億ドル相当、25%の追加関税を発動
中国側も同日、以下にて応酬。
- アメリカ製品545品目に対し、340億ドル相当、25%の追加関税を発動
対中国の追加関税:第2弾
続いて2018年8月23日には、アメリカは、
- 中国製品約280品目に対し、160億ドル相当、25%の追加関税を発動
中国から輸入される農業機械、化学品、バイク、アンテナなど、中国から輸入する製品の約半分が影響を受けることに。
中国も即時報復措置を表明し、
- 米国製品333品目に対し、160億ドル相当、25%の追加関税を発動
石炭や医療器具、自動車、バスなどの製品が対象。
対中国の追加関税:第3弾
2018年9月17日、アメリカ:トランプ大統領は、中国の知的財産権の侵害を理由に、
- 中国製品5745品目に対し、2000億ドル相当、10%の追加関税を発動予定
(9月24日予定)
更に中国が年末までに政策変更に応じない場合、来年2019年には、追加関税を25%に引き上げ予定と表明。
中国も、
- 同時に米国製品5207品目に対し、600億ドル相当、5%と10%の追加関税を行う
といった報復措置を発表している。
…..China has been taking advantage of the United States on Trade for many years. They also know that I am the one that knows how to stop it. There will be great and fast economic retaliation against China if our farmers, ranchers and/or industrial workers are targeted!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2018年9月18日
…..中国は長年にわたって米国を貿易に活用してきた。彼らはまた、私はそれを停止する方法を知っているものだ知っている。私達の農夫、牧場および/または産業労働者が目標とすれば中国に対して大きいおよび速い経済的な報復がある
ちなみに今回の米国の措置では、iPhone、スマートウォッチなど、消費者向けテクノロジー製品の一部のは適用除外。
追加関税のまとめ
追加関税の1段から3段までまとめると、以下のようになる。
追加関税の発動 | アメリカ(対中国) | 中国(対アメリカ) |
追加関税:第一弾 (2018年7月6日) | 金額:340億ドル 関税率:25% 対象:818品目 | 金額:340億ドル 関税率:25% 対象:545品目 |
追加関税:第二弾 (2018年8月23日) | 金額:160億ドル 関税率:25% 対象:284品目 | 金額:160億ドル 関税率:25% 対象:333品目 |
追加関税:第三段 (2018年9月24日) | 金額:2000億ドル 関税率:10% 対象:5745品目 | 金額:600億ドル 関税率:5%と10% 対象:5207品目 |
追加関税:第四段 (未定) | - | - |
こうしてみれば、第一弾、第二弾の対中国のアメリカの追加関税、中国の報復関税の金額ベースの、関税率のバランスはとれているが、今回の第三弾では、明らかにバランスが崩れている。
今後はどうなる
第二弾までは双方合計がおよそ500億ドルで均衡していたのに対し、第三弾では、アメリカが中国に対して2000億ドル規模、かたや中国はアメリカに対しおよそ3分の1の600億ドル規模。
もともと今回第三弾の追加関税は、アメリカでは10%ではなく25%の予定だったところ、25%は来年に持ち越し、急遽10%とした経緯がある。
中国が対抗措置として同額の追加関税をしていない、バランスを崩した、となれば、経済的な報復措置としてはそろそろ限界のところまで来ているかもしれない。
2017年米国が中国から輸入した製品の総額は5056億ドル(およそ53兆円)
2016年時点で見れば、米国の輸出は中国向け1割弱、中国は輸出の約2割を米国に依存。
今回アメリカが第3弾として25%から10%に落とし、25%は年末までの中国の態度を見て来年2019年に発動、としているのは、25%という弾を残しつつ、ある意味中国の限界を見切っている、ということなのか。
世界のモノの貿易総額に占める米中合計額の比率は2016年には23%となり、米中が貿易摩擦で更にエスカレートするとなれば、世界経済に大きな影響がでるのは必至。
面子を重んじる中国が、果たして年末までに態度を軟化させるのか、このまま強硬姿勢を崩さず、来年2019年に今回第3弾の追加関税が10%から25%引き上げられることになるのか。
これから以降、2018年年末から2019年に向けて、目が離せない状況だ。
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