香港人権法案を分かりやすく解説!なぜ米国は香港を気にするか、中国との関係は今後どうなる

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2019年11月、アメリカで制定された「香港人権・民主主義法案」。

11月27日に米トランプ大統領が署名したことにより、同法案が成立したわけですが、「なぜアメリカが香港に関する法案を成立させるのか」、というそもそもの疑問と、「この香港人権法案はどんなもので、どういった効力を発揮するのか、それにより米国と中国の関係は今後どうなるのか」、など、分かりやすく解説してみます。

米国と香港の関係

「香港人権法案」とは、2019年11月27日アメリカで制定された法律で、正式には「香港人権・民主主義法案」(Hong Kong Human Rights and Democracy Act)。

香港は勿論アメリカに属する、といったものではなく、1国2制度の中とは言え中国の一部。アメリカではないよその国(の一部)について、一見すると他国が介入するように見えるこの「香港人権法案」なるものをなぜアメリカが成立させたのか。

日本から見ると何か不思議な感じがしないでもないこの法案の制定は、何か特別な意図をもって突然制定されたわけでなく、香港とアメリカのこれまでの関係にその理由があります。

そもそも香港は、今からもう35年前になる1984年12月、中国とイギリスによる「中英連合声明」により、1997年7月1日に中国に返還されると決められ、実際にその1997年7月1日に中国に返還されてます。(香港の主権が中国に返還された)

この1984年の「中英連合声明」では、

  • 一国二制度を前提とし、
  • 香港は社会主義による統治(中国共産党による統治)ではなく、資本主義による統治とする
  • その期間は50年間(2047年6月30日まで:つまりその後は1国2制度はなくなる)

だから香港は中国の特別行政区になってます。

中国、という社会主義の国(というか中国共産党が支配する国)に返還されるにしても、香港は米国と同じく自由主義国家(法治主義国家)に含まれる位置づけであり、米国は香港を、中国、というくくりの中ではなく、「香港は自由主義圏に含まれる」位置づけとして、中国とは別に「香港だけ特別に扱う」といった必要が出てきました。

そのためアメリカとしては香港返還(1997年)前の1992年に「米国・香港政策法」というものを定め、米国の香港に対する取り扱いを規定しています。

米国に対する香港

米国で1992年に定められた「米国・香港政策法」では、香港に対する関税や査証(ビザ)などでの優遇措置の適用を定めていますが(だから現在の米中貿易戦争の関税引き上げ対象にはなっていない)、その大前提が、中国による1国2制度としての香港の扱い。

中国が中国の体制の中で香港を扱うようなことになれば、1国2制度の原則が崩壊し、つまりは、米国で1992年に定められた「米国・香港政策法」の前提が崩れることになる、米国としては香港に対しての関税、査証などの優遇措置は適用できなくなる。

でもなぜ米国は香港に対する優遇措置の適用にこだわるのか。香港が中国の一部に取り込まれることによるアメリカのデメリットは何なのか。

ニューズウィーク日本版「米議会、香港人権法案可決の意味 失う「特別な都市」の地位 」によれば、米国が香港に特別な地位ともいわれる優遇措置をとっている理由としてはビジネス面が大きいようです。

香港には9万に迫る米国人が居住し、1300余りの米企業が事業展開しているとされ、米国と香港の貿易額はなんと推定673億ドル(7兆円に迫る勢い)。

国・地域別で見ると最も大きく、香港に対する米国の貿易黒字額は338億ドル(3兆6千億ほど)となっているようです。

  • アメリカから見た場合、香港は中国とは切り離されて考えられているのため、対中貿易戦争における関税も香港には適用されない、
  • でも、1国2制度が崩れ、香港が中国の単なる1地方都市ともなれば、対中関税の対象にもなり、
  • これまで同様のビジネス展開も難しくなり、
  • ビジネス面での損失は非常に大きいものになる

そのため、香港の現状維持をしたい、が、香港が中国に飲み込まれていく(1国2制度の崩壊)となれば、今までの優遇措置は適用できない、というのが米国の立場となるのでしょう。

今回定めた「香港人権法案」では、以下の内容が盛り込まれています。

  • 1)米国の利益に関する条件の確認
    • 香港における米国の利益に関する条件についての報告書を毎年国務長官に発行する
  • 2)香港の自立の確認
    • 香港について中国と異なる扱いをする法律、協定を制定する時は、事前に香港が十分に自立していることを国務省が確認する
  • 3)大統領による確認と米国入国の拒否
    • 大統領は、香港の特定の書店、ジャーナリストに対して監視、拉致、拘禁、強制告白を行った責任者を明らかにする。
    • 基本的自由を抑圧する行動をした者に対しては、合衆国内の資産凍結、米国への入国拒否。
  • 4)2014年の香港居住者のビザ申請
    • 2014年に香港に居住したビザ申請者は、香港の選挙に関する非暴力的な抗議活動に参加したとして逮捕などの政府の措置を受けたとしても、それを理由にビザを拒否されることがない

「香港人権法案」と「人権」が入っているだけに、香港での活動についても言及された内容になっています。

2014年については、その年に起きた香港反政府デモ(雨傘運動)のことを指していると思いますが、この時、1人1票の「普通選挙」が導入される予定であったところ、そうはならなかったことに対して起きた反政府デモになると思います。

大枠で見れば、1国2制度を維持し、

  • これまでの優遇措置の継続可否判断
  • 中国に対するけん制/制裁

が盛り込まれたものになっている、というように見えそうです。

大統領が、香港の特定の書店やジャーナリストに対する監視、拉致、拘禁などを行った責任者を明らかにする、といった大統領が何をするという具体的内容が盛り込まれているのが凄いですね。

2014年の件まで絡められると、中国から見れば こめかみ がピクピクしまくりそうな感じです。

今後の展開

今回の香港人権法案が制定されたことで、今後はどうなるか。

この法案には先ほど見たように以下が盛り込まれています。

  • 1)米国務省による(最低)年1回の確認
    • これまで同様、通商上の優遇措置を香港に与えることが妥当かどうか、少なくとも年1回、アメリカ国務省が香港に対して自治が維持されているか確認する
  • 2)人権侵害に対する措置
    • 香港で起きた人権侵害の責任者には、米国への入国禁止や資産凍結するなどの制裁が科せられる

1)について、米国務省が香港の自治に関し(介入しないまでも)少なくとも年1回確認する、となり(それもどこかの調査機関ではなく、国家として確認する)、当然中国から見れば、なに人の家を監視してんだよ、余計なお世話だ、と猛反発は必至。

2)についても同様で、中国から見れば、自国内で起きたことについて、なんでアメリカが入国禁止や資産凍結するとか関係してくるんだ、余計なことするな、というところにもなるでしょう。

そもそもとなる香港返還を決めた中国とイギリスの「中英連合声明」(1984年12月)について、中国・外務省報道官の定期記者会見(2017年6月)で以下のような発言をしています。

  • 香港の問題は中国の内政に属している。
  • 1984年の「中英連合声明」は歴史的文書であり、今では実用的な意味を持たず、中央政府の香港の管理に対する拘束力もない。

つまりこの頃から既に中国からしてみれば、過去の中英連合声明などはもう意味はない、50年間などという期間も今となっては関係ない、といっていることにもなります。(ということから、当たり前のように反発がある)

アメリカと中国は更にこじれる?

香港では民主化や自治を要求する抗議活動が何か月と続いているようですが、その騒乱もエスカレートしているようにも見え、今後ある時突然に中国政府がその鎮圧に向けて力による強行手段をとるのでは、とも心配されてます。

米国は中国との貿易戦争真っただ中ですが、12月に予想された米中通商協議の「第一段階の合意」も2020年にずれ込むとの可能性もささやかれる現在(ロイター20日報道)。

その要因として挙げられているのが、中国から米国に対して広範囲な関税の段階的撤廃に対しての対立、ということですが、今回の米国による香港人権法案の成立により、中国側が更なる要求をし、より合意が困難になる、とも考えられます。

トランプ大統領は2020年11月の米大統領選という課題もあり、対中強硬路線を示すとともに、大統領選に向けて第一の合意、そして第二の合意と進めたいところ。

ただポイントは今後米国の大統領がかわったとしても、この法律は残る、香港に対するアメリカの姿勢は今後も全然変わらない、というところ。

2019年12月15日には中国製品約1560億ドル相当の追加関税発動と、事態はめまぐるしく動きますが、今回の香港人権法案の成立が実は後から振り返ってみればその後の大きな起点になっているかもしれません。

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