日韓請求権協定と徴用工問題を分かりやすく!今後や罰則、条約破棄でどうなる?

2018年10月30日に韓国最高裁で、先の大戦における元徴用工の賠償の請求権に関する訴訟に対して日本企業(新日鉄住金)に元徴用工の4人に合わせて4000万円支払うよう、賠償命令が下されました。

これに対して安倍首相や菅官房長官、河野外相など日本政府からも韓国のこの司法判断に対しては厳しいコメントが相次いで発表され、日韓関係に関わる人から見れば、今後はどうなる、という思いでしょう。

(追記:2018年11月29日には三菱重工業に対する元徴用工、元朝鮮女子勤労挺身隊員に対する損害賠償も確定)

日本から見れば、この請求権は「1965年の日韓基本条約」に付帯する「日韓請求権協定」で両国の国交正常化に伴い解決はされている、といった位置づけですが、今回の韓国の最高裁(大法院)での判決は、この「日韓請求権協定」だけにとどまらず、実は大元となる「日韓基本条約」にまで踏み込んだものとなっているようです。

単純な話ではなく、日本と韓国の関係に関する根幹部分にも関連するところにもなり、ここではその本質部分も含めて、分かりやすく、しっかり解説します。

また、今回の判決を受け、日本では、この条約を破棄せよ!という意見も見かけることから、紛争解決の手順、破棄して白紙にすると罰則規定があるのか、この条約がなくなったら何が起きるのか、というところも見て行きましょう。

ではまずは、日韓請求権協定を巡る問題点とその本質部分からです。

日韓請求権協定を巡る問題点

日韓基本条約と日韓請求権協定

今回の徴用工裁判に関連するのは請求権に関する「日韓請求権協定」。

これは1965年に日本と韓国の国交正常化の際に結ばれた「日韓基本条約」に伴う協定の1つとして、日本と韓国の間で合意されたもの。

まずその「日韓基本条約」についてざっくり見れば以下のようになってます。

  • 日本と韓国の間で外交関係を結ぶ
  • 韓国を朝鮮にある唯一の合法的な政府として認める
  • 共通の利益を増進させるため相互に協力する
  • 通商、民間航空運送などに関して、速やかに協議開始する

全文はこちら
日韓基本条約(日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約)

この「日韓基本条約」の締結では、「日韓請求権協定」含めて他にもいろいろと協定されており、それらを含めた全体構成は以下の通りです。

  • 日韓基本条約
  • 付帯する協定 
    • 1)日韓請求権協定
    • 2)日韓法的地位協定
    • 3)日韓漁業協定
    • 4)日韓文化財・文化協定
    • 5)日韓紛争解決交換公文

(1つ1つの正式名称はとても長いので、ここでは通称や略称を用いてます)

「日韓請求権協定」は(当たり前ですが)日本と韓国がこの内容で合意する、というものですが、この日韓請求権協定の中身を見てみれば、以下4つの条文からなっているのが分かります。

  • 第一条 経済協力について
  • 第二条 財産、権利、請求権に関する解決について
  • 第三条 紛争の解決について
  • 第四条 批准と効力発生について

原文は外務省で公開されているので、以下を参照してみてください。
(日本語と韓国語が併記されてます)
日本国外務省:日韓基本条約(財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定)

この日韓請求権協定で徴用工などの問題は、第二条の請求権の解決に関連するところですが、あらためて第一条から第四条まで見てみれば、その要約は以下の通り。

  • 第一条(経済協力)
    • 3億ドルの無償提供(日本から韓国へ:期間10年)
      (条約締結当時、1080億円相当)
      (使用用途は、韓国の経済発展のための使用に限定)
    • 2億ドルの低利貸付け(日本から韓国へ:期間10年)
      (条約締結当時、720億円相当)
      (使用用途は、韓国の経済発展のための使用に限定)
  • 第二条(請求権は完全に解決された)
    • 国、国民(法人含む)の財産、権利、利益と、両国とその国民の間の請求権に関する問題は、完全かつ最終的に解決された
  • 第三条(紛争解決の手段)
    • 協定の解釈や実施に関する両国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決する
    • これで解決できなかったときは、一方が他方の国に仲裁依頼をして、そこから30日以内に、各国政府が任命する1人の仲裁委員(つまり日本一人、韓国一人)と、日本、韓国のいずれかの国民でない別の国の仲裁委員一人の合計3名の仲裁委員会で決める。
    • 期間内に仲裁委員が任命されたなった場合、両国が各々選んだ国が指名する仲裁委員各一人(計2名)と、その2名の仲裁委員が選んだ第三国が指名する仲裁委員1名の計三名で、仲裁委員会を作る。
  • 第四条(効力の発生)
    • この協定は、批准書の交換の日に効力を生ずる

見て分かるように、第二条で、

両国、そして国民の間に関係する請求権の問題は「完全かつ最終的に解決された」

となっています。

韓国語は分かりませんので、協定の原文にある韓国語が、ここで見る日本語の文字通りの意味となるかは分かりませんが、条約に関する文言は、非常にシビアに書いてあるのが普通なので、韓国語でもそういった内容になるだろうと思います。

日本政府の立場は正にこの1点で、

  • 日韓基本条約が日本と韓国の間で締結された以前の請求権は全て「完全かつ最終的に解決された」
  • だから、今話題の徴用工というものの問題もない

「完全かつ最終的に解決された」でもなぜ問題に?

ではなぜ韓国で徴用工の問題になるのか、といえば、まず

  • 国家間の条約では、個人の請求権まで消滅しない

という内容(条約の解釈)が、過去日本の国会答弁にあり(1991年8月。当時の条約局長、柳井俊二氏によるもの)、これを機に、韓国の元徴用工による個人の請求権に関する訴訟が起こることになったようです。

またそもそも日本の外務省が、条約締結当時のメモとして、

  • 「協定を結んでも個人の請求権は別問題」(by 外務省)

としている内部文書を作成していた、ということでもあるようです。

参考)東亜日報:日本外務省文書「日韓協定と個人請求権は無関係」

これらにより、個人の請求権まで消滅していない、というところから、個人が何らかの理由により請求する権利は残っている、ということになってますね。
(なので訴訟を起こしても、訴訟を起こす権利として存在する)

ところが、上で見た「日韓請求権協定」の第二条では、

  • 両国とその国民の間の請求権に関する問題、については、完全かつ最終的に解決された
  • つまり、国民含めて、国をまたぐ問題は、完全に最終的に解決された

となってます。

つまり、請求権はあるが、相手国に対して請求しても、それはすでに解決された話、となるわけです。

実際、「日韓基本条約」、「日韓請求権協定」をもとに日本の中では国内法(措置法)が整備され、日本国内で起きた元徴用工の訴訟(旧日本製鉄大阪訴訟)でも、2002年には大阪高裁、
その後の最高裁でも、原告の訴えは棄却され、日本国内では、

  • 韓国からの個人の請求権に関する裁判は請求する権利は認められていても(裁判は起こせるが)主張は認められない

という形になってます。

参考)
徴用工訴訟に関する韓国大法院の判決について(新日鐵住金株式会社)

このように、日本では2国間の取り決めに基づいて、それを成立するために国内法が整備される、という流れで来てます。(日本では条約の解釈通り進んだ、というところ)

韓国においても過去には、個人の請求権も消滅した、という立場をとっていたらしいですが、日韓基本条約と付随する協約の議事録の一部が2005年に韓国の国民に公開された時、政府見解として、

  • 政府や旧日本軍が関与した反人道的不法行為は、請求権協定で解決されたとみられない

という声明も発表しています。
(この中に元徴用工も含まれている、ということになりますね)

なぜこのような声明を伴ったのかは分かりませんが、国民感情を考えて、ということかもしれません。

ただ、その後の2009年8月には、ソウル行政裁判所という韓国の裁判所が「韓国人の個別補償は日本政府ではなく韓国政府に求めなければならない」ということが発表されたようで、これは、

  • 2国間の問題は解決されたので、問題があればそれは相手国ではなく自国(韓国)に求めてください、
  • つまり、個人の請求はできるが、相手は日本ではなく自国になる

ということが表明された、ということになります。

このまま進めば、韓国においても日本と同じような流れになったはずですが、ここで問題が起こります。

憲法裁判所と大法院の判断

2011年、韓国の憲法裁判所がいわゆる従軍慰安婦、韓国人原爆被害者の問題について、韓国政府が日本に対して十分な働きかけをしてこなかったことが違憲、との判断をしています。
(つまり韓国政府に対して日本とこれらの問題に対して外交交渉をせよ、と命令した)

参考)
韓国における日本企業への戦時徴用賠償命令判決とその背景

またその翌年の2012年、上で見た憲法裁判所の判断の影響もあったのか、韓国の最高裁判所である大法院が、日本企業に対して徴用者の賠償請求を認める、だから釜山高等法院の判断(請求権は認められない)に対して差戻し(もう一度審議せよ)、といった判決を下してます。

判決内容の詳細はこちら(菱事件大法院第一部判決(仮訳)

この時の大法院の判決の趣旨をざっくり見てみれば、

  • 1)そもそも請求権協定は、徴用工には適用されるものではない
    (請求権協定はサンフランシスコ条約に基づき日韓両国間の財政的・民事的債権債務関係を政治的合意により解決するためのもの、という解釈)
  • 2)韓国の憲法(大韓民国制憲憲法)と照らし合わせると、日韓併合(いわゆる植民地支配)は不法占拠であり、日本での判決は受け入れられない
    (日韓併合は1910年、「憲法と照らし合わせる」というのは1948年制定の大韓民国憲法を指すと思われる。とすると、過去の時代をその後定められた憲法を基準に判断していることになりますが...)
  • 3)日韓請求権協定は、反人道的不法行為に対しての内容ではない
  • 4)反人道的不法行為では、消滅時効の主張は信義誠実の原則に反していることから認められない

一言で言えば、徴用工問題は反人道的不正行為、だから、日韓請求権協定の対象とはならないので日本企業に対して賠償請求ができる、という内容です。

分からないのが、というかややこしいのが、上の2に出てくる韓国の現行憲法との照らし合わせの解釈。

判決内容(菱事件大法院第一部判決(仮訳))には、憲法の附則第101条で「この憲法を制定した国会は檀紀4278年(1945年)8月15日以前の悪質な反民族行為を処罰する特別法を制定することができる」とあり、これだけ見ると、韓国では現在の憲法などで憲法成立以前の過去を処罰できる、裁判所でもその考えを踏襲している、とも見えます。

時効の話も出てますが、戦争下における非人道的不法行為に時効はない、という世界的な考え方の流れもあるようですね。(参考:戦争犯罪論の現在

これらを踏まえて2012年の大法院の判決内容は、ざっくりと、

  • 日韓併合(いわゆる植民地支配)は合法ではない
  • 徴用工は、反人道的不法行為である、
  • なぜなら、日韓併合(いわゆる植民地支配)が不法であったため
  • 反人道的不法行為は、日韓請求権協定の対象にならないし、時効も認められない
  • だから日本に対する個人の請求権はある

ということになるでしょうか。
日韓併合まで話が及んでますね。

そして2018年の判決とその本質

このような流れの中で、2018年10月30日には、大法院(韓国の最高裁判所)において、新日鉄住金に対し損害賠償を命じる判決を言い渡した、ということになります。

日本の立場からすると、ここでいう植民地支配は植民地としての支配ではなく、

  • 1910年、大日本帝国は大韓帝国との間に結ばれた「日韓併合条約」(韓国併合ニ関スル条約)にて合法的に併合したもの、
  • 当時の世界の主要国(日本の同盟国であるアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、清国など)が承認したもの、
  • つまり国際的に認められ、合法な手続きを踏んで行われたもの、

という位置づけです。

韓国の立場では、(韓国からの提案であったようですが)国力のないことを良いことに植民地にされた、という意味から日帝強占期(日本に占領された時期)、という名で教科書では説明されているようです。(日本統治時代の朝鮮 – Wikipedia

日本では合法、韓国では合法ではない、という立場に立っていて、これが先ほどの大法院の判決の趣旨にある「植民地支配が不法であったため」というところにもつながりますね。

このいわゆる植民地支配が合法かそうでないかは、日韓基本条約での大きな争点ともなるところで、その第二条には、以下のようにあります。

  • 千九百十年八月二十二日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される

1910年以前の大日本帝国と大韓帝国間で結ばれた条約や協定(1910年に結ばれた日韓併合条約含む)は、もはや無効、となってますが、この「もはや無効」がくせもの

日韓基本条約の締結までには、1951年(昭和26年)から1965年(昭和40年)まで、実に14年ほどの歳月を費やしていますが、文言に対して様々な交渉がされています。

その中で、韓国は「無効」(null and void)を、日本はそれに「もはや」を加えた「もはや無効」(already null and void)を主張して大激突

その理由は、単に「無効」とすると、条文解釈上、韓国の併合(1910年の日韓併合条約)は無効であった(併合自体が無効であり、実際は不法な植民地支配だった)、と言えることにもなり、それは合法的な手続きを経て行った、という日本としては受け入れられない。

韓国から見れば、屈辱的な併合だった(つまり植民地支配された。日韓併合条約は無効である)というところで、単に無効としたい。

結果、どちらにも意味が取れる、ということで、「もはや無効」として文言が残った、とされています。(玉虫色の政治決着)

日韓基本条約の全文は以下参照
[文書名] 日韓基本条約(日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約)

結局、この「どちらにも意味が取れる」が、韓国では「(いわゆる)植民地支配は合法的なものではない」という意味でつかわれ、それが先ほど出てきた韓国の最高裁である大法院の2012年の差し戻し判決、

  • 日韓併合(いわゆる植民地支配)は合法ではない
  • 徴用工は、反人道的不法行為である、
  • なぜなら、日韓併合(いわゆる植民地支配)が不法であったため
  • 反人道的不法行為は、日韓請求権協定の対象にならないし、時効も認められない
  • だから日本に対する個人の請求権はある

につながり、2018年10月30日の韓国の最高裁(大法院)判決「元徴用工に対して日本企業に賠償を命ずる」につながった、ということになりそうです。

判決に対する日本政府の姿勢と対応

この10月30日の韓国最高裁(大法院)の判決を受け、日本政府としては、以下のコメントを発表しています。

  • 安倍首相(10月30日)
    「日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している。国際法に照らしてあり得ない判断」
    https://www.sankei.com/
  • 菅義偉官房長官(11月8日)
    「韓国による国際法違反の状態が生じている」
    https://www.jiji.com/
  • 河野太郎外相(11月6日)
    「(日韓)請求権協定で完全かつ最終的に終わった話。国際法に基づく国際秩序への挑戦だ」
    https://www.asahi.com/

ちなみに2018年11月11日現在、外務省のホームページでは、

朝鮮半島出身の「旧民間人徴用工」をめぐる裁判(11)については、日韓間の財産・請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるとの日本の一貫した立場に基づき、今後とも適切に対応していく。

と、この問題は、完全かつ最終的に解決済み、という明確な立場を打ち出しており、また外務省の河野外務大臣会見記録には、韓国政府が全て対応するものと承知している、という発言が記されてます。

国際法に照らして、とか、国際法違反、という言葉が出てきますが、そもそも韓国併合(いわゆる植民地化)については、歴史的には、韓国からの提案により、更に当時のアメリカ、イギリスなどの主要国に承認を得た中で日韓併合条約が結ばれ(1910年)、当時の韓国は日本の一部となっているようです。

そうした正式な手続きを踏んだ併合であるので、

  • いわゆる植民地支配と呼ばれるものが不法であることはなく、
  • だから、日韓基本条約、その中の日韓請求権協定ですでに最終的に終わっている請求権の問題を覆すのは、国際的に認められているものへの違反である、

という意味にとれるでしょう。

  • 国民を含む国家間ではすでに条約で終わっている話であり、あとは、2国間で結ばれた条約の内容に基づき、各々の国が国内法を整備して、それぞれの国民に対して対応すること

ということになりますね。

また、日韓請求権協定の第一条では、

  • 3億ドルの無償提供(日本から韓国へ)
  • 2億ドルの低利貸付け(日本から韓国へ)

という内容が記されてます。

日韓基本条約を結ぶにあたり、1つの大きな課題が、実はこの元徴用工への補償問題であり、
日本としては、請求権を持つ個人への直接支払いを当時提案していたところ。

これに対して、韓国側は、請求権に関わる資金は個人ではなく全て韓国政府に一括し支払うことを要求したため、日本側はその要求を受け、最終的に、無償の3億ドルは韓国政府に支払うことになった、という経緯があるようです。

こういった経緯も背景にあり、徴用工の問題は、条文にあるように「完全に最終的に解決された」というのが日本の立場になるでしょう。

今後の流れ

二つの選択肢?

今回の韓国最高裁(大法院)による判決を受け、もう条約破棄しよう、などをネットでは見かけるようになりましたが、まず今後どうなるのか、をみてみると、以下の記事。

徴用工、日本単独で国際司法裁提訴へ(産経デジタル)

この記事によれば、今後の展開としては以下になりそう。

  • 1)韓国政府に立法措置を促す
    まず日韓請求権協定の趣旨にのっとり、韓国政府が請求の権利がある元徴用工に対して賠償を行う。そのような立法措置をとることを要請。
  • 2)第三者の判断:国際司法裁判所(ICJ)
    韓国政府が元徴用工への補償に対する立法措置をとならいとなれば、次の手段は、第三者に決めてもらう、つまり、国際司法裁判所(ICJ)に提訴する

実は2013年ごろの韓国地方裁判所で徴用工に対する賠償支払いの判決(日本企業に支払いを命ずる判決)がでている問題で、この後、最高裁で日本企業の敗訴した場合には、国際司法裁判所へ提訴する、という話が当時すでに出ています。

戦時徴用訴訟で韓国に警告 政府、敗訴確定なら「国際司法裁に提訴」(産経ニュース)

今回2018年10月にそれに関する最高裁判決が出た、しかも日本企業敗訴で賠償支払い命令が下った、ということから、もう二国間では決着がつかないかもしれない、その場合には第三者機関の国際司法裁判所への提訴へ、といったことが現実となる可能性が大きくなった局面です。

国際司法裁判所への提訴は、両国の同意が必要で、

  • 1)両国同意のうえで共同付託
  • 2)韓国が応じない場合には、日本が単独で提訴して、その後韓国の同意を得る

という2つの流れがあるようですが、いずれも相手国(韓国)の同意が必要。

が、いずれも韓国の同意を得るのは難しい、との見方が大半のようで、同意をしない場合も、どうして同意をしないかの説明義務は発生する、ということから、難しい局面になることは必至のようです。

条約に明記された紛争の場合の手続き

日韓基本条約では、一番上の方で見たように、付帯する協定に「日韓紛争解決交換公文」というものがあり(原文はこちら)、これによれば、

  • この条約に関する両国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決する
  • これで解決できない場合には、両国政府が合意する手続に従い、調停によつて解決を図る

ということが記されています。

ここでいう「両国政府が合意する手続」とは、請求権に関する協定「日韓請求権協定」においてその第三条に記載されている「紛争解決の手段書き」を指していると思いますが、第三条の内容を再掲すると以下のようなものです。

第三条(紛争解決の手段)

  • 協定の解釈や実施に関する両国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決する
  • これで解決できなかったときは、一方が他方の国に仲裁依頼をして、そこから30日以内に、各国政府が任命する1人の仲裁委員(つまり日本一人、韓国一人)と、日本、韓国のいずれかの国民でない別の国の仲裁委員一人の合計3名の仲裁委員会で決める。
  • 期間内に仲裁委員が任命されたなった場合、両国が各々選んだ国が指名する仲裁委員各一人(計2名)と、その2名の仲裁委員が選んだ第三国が指名する仲裁委員1名の計三名で、仲裁委員会を作る。

紛争解決のための手続きは書かれてますが、これに照らし合わせて今回で言えば、

  • まず、外交上、日本政府の立場として、安倍首相、菅官房長官、河野太郎外相などが、韓国内で徴用工の補償に対する立法措置をとって対応すること、という要請をだし(外交上の経路を通じて解決)、
  • それがかなわない場合には、仲裁委員会を設置する、

という流れになりますね。
が、韓国側が仲裁など不要(我々の主張が正しい)、という立場に立てば、この紛争解決のための手段も成り立ちません。

そうなれば、国際司法裁判所(両国政府が合意する手続)にて解決しよう、ということになりますが、ここで見たように今後の流れとしては

  • 1)外交上の経路を通じて解決
  • 2)仲裁委員会を設置
  • 3)国際司法裁判所へ提訴

といった3つのステップを順次踏んでいく、ということになるでしょう。

条約破棄はあり得るか

歴史を振り返る

こういった状況の中、もう条約を破棄しよう、という論調もよく見かけます。

確かに日韓基本条約、付帯する協定には、上で見たように紛争解決のための手段は書かれてますが、破棄に関しては何も書かれてません。実際のところ条約は破棄できるものなのでしょうか?

ここで歴史を振り返ってみると、実際には国家間の条約の破棄は例があるようですね。少しだけですが例を挙げてみると...

  • 1)日米通商航海条約
    1939年にアメリカが日本の対中政策に対して怒り、条約の破棄を日本に通告
  • 2)日ソ不可侵条約
    1945年、日ソ不可侵条約は翌年期限満了となるところを、ソ連政府は延長しないことを日本に通達(条約的には1946年4月までは有効)
    (ソ連側では、これを条約の破棄と呼んでいるようです。多分大戦末期の日本側への進出に対して、破棄、と言わないと整合が取れない、ということかもしれません)
  • 3)INF全廃条約
    最近で見れば、アメリカが中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を表明している(2018年10月)

条約というものは、各々の時代背景、利害関係の中で、破棄されていくもののようです。

破棄するにしても、その条約を管轄する上位機関などがないため、破棄に対するペナルティーもあるわけでもない(条約中にペナルティーが記載されていれば別ですが)。極端な話、普段の生活レベルで言えば社内や学校でも時代によってルールが変わっていく、見たいなものになるのでしょうか。

今回の徴用工問題では、韓国の最高裁判決の趣旨が「日韓請求権協定」というところよりは、大元の「日韓基本条約」の根本にあたる(曖昧化している)日本と韓国の併合(植民地化)に関することがその本質部分となるでしょう。

  • 日本は、併合は合法、だから日韓請求権協定で解決済み
  • 韓国は、併合は無効、だから日韓請求権協定では解決されてない

日本、韓国の立場がこうなれば、両国の意見の調整は不可能な部分にもなると言えそうです。

こうなれば、日韓基本条約の付帯協定である日韓請求権協定だけの話ではなく、国交正常化のために締結された日韓基本条約そのものの否定となり、それが「条約を破棄する」ということにつながりそうです。

日韓請求権協定だけの話であれば「そこだけが争点」になると思いますが、その元となる日韓基本条約自体が問題になり、例えば、それを本当に破棄する、という事態となれば、長い間多くの人たちの努力によって築き上げてきた日韓関係はどうなってしまうのか。

日韓基本条約を破棄して起こる未来

日韓基本条約、それに付帯する各協定を破棄ともなれば、そこの記されている内容の効力は勿論無効。

すでに終了している内容は賃貸契約のような原状回復(賃貸開始前の元の状態に戻す)などなるはずもなく(喧嘩別れみたいなものですので)、単純に今効力のある内容が無効になるとするとどうなるか。

  • 日韓基本条約の破棄
    • 日本と韓国は国交断絶
    • 韓国を朝鮮にある唯一の合法的な政府としては認めるものではない
    • 共通の利益を増進させるための相互協力はしてもしなくてもよい
  • 1)日韓請求権協定の破棄
    • 有償無償の2億ドル、3億ドル、といった話はすでに終わっているので影響なし。
    • 請求権に関して、完全に終わった、という内容が無効になり、訴訟のし放題?
    • 訴訟しても条約をもとに整備された国内法の根拠がなくなり、裁判しても判決が出ない恐れあり。別の国内法を改めて整備するのか。
  • 2)日韓法的地位協定の破棄
    • 在日韓国人の日本における法的地位がなくなる
    • 入管法にも影響あり
  • 3)日韓漁業協定の破棄
    • すでにこの協定に代わる新たな協定(1998年)が日韓で結ばれているため、条約破棄による影響はなさそう
  • 4)日韓文化財・文化協定の破棄
    • 韓国に戻すとされていたものは終わっているはず。
    • 相手国に対して、研究する機会を与えるために、できる限り便宜を与える、となっているが、これがなくなるだけで特に問題なし?
  • 5)日韓紛争解決交換公文の破棄
    • 紛争解決のためのものなので、なくなるだけ

こうしてみれば、日韓基本条約を破棄した場合には、

  • 国交断絶
  • 請求権はうやむや(各々が根拠とするところがなく独自に法整備)
    • 日本の立場は、すでに支払い済でもあり、完全に解決済
    • 韓国の立場は、解決されてない
  • 在日韓国人は、日本にいられる根拠がなくなりそう
    • ただ、普通に考えれば、過去有効だったものも時をさかのぼって無効にするとは考えられず、新たな法律は過去との整合性をとって(時限措置をとるなどで)制定されるはず

加えて、日本の大きな課題の一つの拉致被害者問題に対して韓国の協力がなくなる、ということも考えられ、影響範囲は非常に大きい、というところでしょう。

条約は破棄だ!と言うのは簡単ですが、実際破棄となると影響範囲が大きすぎて、何がどうなるのかもわからない。破棄することは現実的な話とは思えない感じです。

たとえば、最近では造船業界補助金問題で、世界貿易機関(WTO)に日本が韓国を訴えてます。(WTO提訴は今回で4件目)

日本、韓国をWTO提訴の手続き 造船業界補助金で(産経新聞)

こういった提訴をしている、というところから見れば、条約破棄まで行かないにしても、国際司法裁判所への日本による単独提訴までは現実なものと考えらそうですね。

国際司法裁判所へ単独提訴した結果

では、国際司法裁判所へ日本が単独提訴すると、結果はどうなるか。

単独提訴後に韓国の同意がなければ裁判自体が行われない、ということになりますが、提訴した事実、提訴までに至る経過やその理由などは世界に向けて発信されることになり、どちらに非があるかは、それをみる他の国の判断するところ。

仮に日本に非がある、なんで国際司法裁判所に訴えているんだ、と他の国々が判断すれば、日本は国際的な信用を失い、経済などいろいろな面で悪影響が出て来ることは当然のように考えられます。

逆に韓国に非がある、となってもそれは同じこと。

どちらにしても、大きな影響が出ることは必至でしょう。

今回のポイント

  • 徴用工問題に対する韓国の大法院(最高裁判所)の判決(2018年10月)は、以下の立場の違いから生じているようだ
    • 日本は、併合は合法、徴用工もその中で起きたこと、だから日韓請求権協定で解決済み
    • 韓国は、併合は無効、徴用工は反人道的不法行為、だから日韓請求権協定では解決されてない
  • その本質部分は
    • 本質部分は「日韓請求権協定」ではなく、併合は合法なのか無効なのかといった「日韓基本条約」にある
  • 今後は以下3つのステップで進むことが予想される
    • 1)外交上の経路を通じて解決
    • 2)仲裁委員会を設置
    • 3)国際司法裁判所へ提訴
  • 条約破棄はあり得るのか
    • 条約の紛争については手続きが明記されているが、破棄によるペナルティーなどはない
    • 問題の本質部分が「日韓基本条約」にあるため、こじれれば条約破棄につながる可能性はある
  • 条約破棄となればどうなるのか?
    • 1)国交断絶
    • 2)請求権はうやむや(各々の立場でとらえる)
    • 3)在日韓国人は、日本にいられる根拠がなくなりそう
    • 4)拉致被害者の問題へも影響が出る

1965年に日韓基本条約(付帯協定含む)で国交が樹立した日本と韓国。
その交渉過程は実に長い年月をかけてますが、目標とするところは両国の明るい未来への扉であることは一致していたかと思います。

どうしても折り合いがつかない箇所は、玉虫色の文言を使い、ある意味その場しのぎの政治決着で凌いだ、となったようですが、今回の本質部分はその玉虫色の文言が起因しているとなれば、根が深すぎて、お互いが納得する地点に到達するのは、非常に困難と言えそうです。
(今決着できる問題なら、当時決着できていたはず)

想像できる未来の1つは、国際司法裁判所に提訴するにしても解決はされず(相手国が受け入れない)、現状の両国の立場の違いを未来まで持ち越すこと。時が解決してくれる問題ではないですが、でも最後は時が解決してくれるのを祈るばかりになるのでしょうか。

シェアする

フォローする

コメント

  1. carulon より:

    素晴らしい分析ですね!とてもわかりやすいです。一方の立場からの偏った情報が多いなかで、このような客観的な分析は価値があります。
    一点だけおや?と思ったこと。韓国の視点からすると、日韓併合が合法・非合法にかかわらず、徴用工は反人道的行為であり、よって請求権協定の対象外という立場を取る気がします。徴用工が反人道的か否かが日韓併合の合法性に依存するとなると、そちらに論点が移ってしまい、より問題の解決がややこしくなるばかりか、「日本は反人道的行為を行った」と世界にモラル違反をアピールする力が弱まるような気がします。