会社であれば部下が辞めていくのはよくあること。
それでも部下が辞めると上司は評価が下がるのか、責任を問われるのか、というのは気になるところでもありますね。
実際はどうなのか、いくつかの側面からまとめてみました。
上司の評価、責任に関する3つのポイント
部下が会社を辞めた場合、単に、上司の評価が下がる、責任が問われる、と漠然とした言い方をされる場合がありますが、具体的に以下の3つの側面から見てみるのが良いと思います。
- 1)社員管理から見た影響
- 2)仕事の成果から見た影響
- 3)会社から見た影響
これらから上司の評価、責任はどうなるのか、見ていきましょう。
1)社員管理から見た影響
社員の管理、つまり部下のマネジメントは上司の重要な役割の1つ。
部下が辞めるとなると、このマネジメントに関して上司の周囲、または上司の上司からの評価に影響が出る可能性もあります。
厚生労働省調べでは令和3年上半期でみると、離職率は8.1%。
うち男性社員は7.4%、女性社員は8.9%になってます。
※逆に入職率は男性社員では8.6%、女性社員は9.8%で、辞めていく人もいれば入ってくる人も同じぐらいいる、という感じ
(参考:厚生労働省 – 令和3年上半期雇用動向調査結果の概況)
ざっくり言えば10人に1人は会社を辞めているということで、会社全体で見ればいろいろな部署、部門で辞める人が出ているわけです。
部下が辞めるといっても10人の部下がいれば、そのうちの一人ぐらいやめるというのは良くあることとも言えますね。
これからすると、部下の管理という点では、一人ぐらい辞めるのは自分の部署だけでなく会社全体で見れば普通にあることになり、ハラスメントなどで特別な理由で部下が辞めるというような問題がなければ、上司の評価が下がったり責任が問われるということはないでしょう。
例外で言えば、たとえば新人が入ってくるたびにすぐ辞める、といったケースでは、当然周囲からの視線も強くなり、
- 「なにかあの上司の管理に問題がある」
- 「あいつは部下の管理もできないやつ」
このように、上司のマネジメント能力が問われるのは容易に想像できますね。
また、辞める部下が、実は上司が直接面談し採用した、でもその部下がすぐやめる、という場合では、その上司は人を見る目がないという評価をされる可能性もあります。
これらは上司の評価や責任に大きな影響があるというより「評判が悪くなる」といった程度や、上司の上司が「仕事を任せづらい」という印象が出る程度のことは考えられそうです。
これらからすると、
社員管理・マネジメントから見た上司への影響は、まずは特にない、と見ることが出来そうです。
2)仕事の成果から見た影響
部下が辞めたことにより、上司が設定/想定しているそのチームやグループ、部門全体の成果目標が達成できなくなったり、目標とする成果から大幅に下回ったとなると、当然上司の評価は下がります。
これは部下が辞める辞めないにかかわらず、設定した目標到達しなければ評価が下がるのは組織に働く人にとっては当たり前のこと。
仕事の成果から見た場合、
部下が辞めたこと自体というより目標達成したかどうかという点が上司への影響になります。
部下が辞めたという場合、当然のことながらその穴をどうやって埋めるのかを考え実行に移していくのが上司の役目でもあり、それを単に「部下が辞めたので目標達成できませんでした」となると「ではなぜその後のフォロー(穴を埋めるための対策)をしなかったのか」と、評価が落ちるのは当たり前。
上司の上司から見れば「あなた、自分の役割分かってますか?」となるはずです。
- 「何も考えずに働いている」
- 「だから成果が出せない、目標を達成できない」
こう捉えられてしまえば、仕事ができないやつ、ということで上司からの評価は下がり、それは給料に影響したりボーナスが下がることにつながる可能性も出て来そう。
3)会社から見た影響
人を採用するには、人事部の人たちの活動費(つまりその人たちへの給料や交通費など)から、広告宣伝費、実際採用面接するための人件費、場所の確保のための費用など、さまざまなところでコストがかかってます。
(採用される側は全く意識ないところですが)
そうしたコストをかけて採用した人が会社を(すぐ)辞めるとなると、当然それらの採用するために使ったお金が無駄になり、会社としては「辞めることを考えるより、会社のために役に立つ人間になって利益貢献してほしい」と引き止めるわけです。
仮に部下が辞めることで、その上司に対して「採用するためにかかった費用、どうしてくれるんだよ」となるか、と言えば、そうはなりません。
10人に1人の割合で辞めていくのは一般にあり得ることで、それをいちいち責任だなんだと言っていてはきりがないし、会社としてもある程度の割合で辞めていくのは十分承知している(その代わりに同じぐらい入社してくる)、ということにもなりますね。
評価が下がると言って、引き止められるのか
ここまで3つの側面で、部下が辞める場合の上司の評価や責任について見てみましたが、評価が下がる、責任を問われる、という場合は「目標とする成果が達成できるかどうか」の1点と見て良いでしょう。
では何かの事情から、部下を引き留めたい、という場合があり、実際「引き止められるものか」と言えば、これは非常に難しいですし、実際には「引き止められない」というものになるでしょう。
上司部下の関係から見る
辞めたい、という部下は必ず何か不満を持っており、それが原因で会社を辞めていくわけですが、その不満が解消されない以上、引き止めることはできません。
そもそも、すでに「会社を辞める」といった決心を固めたうえで上司に申し出ている場合がほとんどで、引き止めるのは非常に難しい、というところです。
より詳しくは以下の記事を見てみてください。
法律から見た場合
会社を辞めることに関して関連の法律を見てみれば分かりますが、法律上、退職の自由は認められており、「辞めるのは労働者の自由」というのが原則です。
民法627条1項では以下のように規定されています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
- 雇用の期間を定めなかった時(正社員が該当しますが)、
- いつでも解約の申し入れができ(どんな理由でも退職したいと申し入れができ)、
- その日から2週間経てば解約できる(2週間後には辞められる)
となってます。
ただし、就業規則などで退職するまでに要する期間が2週間以上(例えば1か月等)と定められている場合もありますが、
- その定められた期間に正当な理由があれば、2週間ではなくその定められた期間、
- その定められた期間に正当な理由がなければ、その定められた期間ではなく2週間、
これらの期間で辞められることになりますが、どちらに該当するかは法律の専門家による判断が必要なところになりますね。
期間の定めのある雇用契約の場合(アルバイトやパートなど)は、「期間中は辞められない」というのが原則。「やむを得ない理由」がある場合に限り解約できる、とされてます。
関連する法律として民法第628条には以下のように規定されています。
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。
やむを得ない事由とは、セクハラやパワハラなどのハラスメント、賃金が払われていない、病気など、いわゆる「やむを得ない」という理由ですね。
(旅行に行きたい、とか、仕事が面白くない、では正当な理由とは言えないということです)
ただこの期間について関連する法律には労働基準法(137条)があり、厚生労働省では以下の説明をしています。
1年を超えて3年以内の労働契約を結んだ場合は、働き始めてから1年が経過していれば労働基準法第137条の規定により、当面の間はその使用者に申し出ることにより、いつでも退職できることとなっています。
厚生労働省 – 労働基準法には契約期間の制限はありますか
雇用期間が定められている場合にも、1年を経過した場合にはいつでも退職の申し入れができるようになるということになりますね。
法律面では「辞める権利」がしっかり定められているので、引き止めるために必要以上に時間稼ぎするなどは法律違反ともなりそうです。
辞めたいと意思表示されてから2週間後には会社に来なくなった、けしからん!となっても、責められるとしたら退職に関する規定に無知な上司の方になるかもしれませんのでご用心。
部下が辞める場合の最低限行う2つの事
部下が辞めたいと言って辞めるのは、権利も保証されていることからやむを得ない事。
それでも単に「仕方ない」で終わらせるのではなく、上司にはやるべきことが最低2つ残されてます。
1)辞める時期の交渉
1つ目は、業務の区切り、引き継ぎなどを考えて、最低限ここまでは業務を継続してほしい、という交渉です。
辞めます、はい分かりました、では、そもそも何も考えてない上司ともなり、仕事に影響が出れば評価が下がることにもなるでしょう。
退職したいという部下の希望をかなえつつ、上司自身もその影響を最小限にとどめる意識と行動が必要になりますね。
更に人員欠員が出ることから補充人員の手配をしつつ、新たな人が来ても引継ぎを終えるまでは継続してほしい、という交渉もあります。
この場合、予定通り補充人員が手配できるとは限らないので、最低ここまではといった期間設定をし、辞めていく社員には引継ぎ資料の作成を終わらせてもらう、またその資料のチェックまではしておく、といったことも必要となりますね。
2)退職理由の本音を探る
上司がやるべきことの2つ目は、その社員が退職を決断した本当の理由をきいておくこと。
会社を辞める理由として「一身上の都合」「家庭の事情」「故郷に帰る」「家業を手伝う」などが一般的に挙げられますが、実はそのほとんどは仮の名目だったりします。
嘘とは言わないまでも、
本当の理由は別にある、と思った方が良いでしょう。
何か上司自身に問題があったのか、人間関係に問題があったのか、など、多分本音の部分は言わないでしょうが(言っても仕方ないし、話が長引くのは辞める方としては避けたい)、出来る限り、それも強要するのではなく本音の部分は少しでも聞いておきたいものです。
それにより今後の人材流出を防ぐための参考になりますし、何か問題指摘があれば解消するようにしていく、ということが重要ですね。
本音の聞き方については以下の記事(の中の本音を引き出す)を参照してみてください。
この記事のまとめ
- 部下が辞める場合の上司への影響:
- 1)社員管理から見た影響:特になし
- 2)仕事の成果から見た影響:目標とする成果に影響が出れば上司の評価に影響する(部下が辞めたこと自体には特に影響なし)
- 3)会社から見た影響:特になし
- 引き止められるものなのか?
法律上も辞める権利があり、引き止めらるものではない - 部下が辞める場合の最低限行う事:
辞める時期の交渉、辞める本当の理由の確認
部下が辞めるとき、部下からしても上司の評価に影響が出るのか?と考えてしまう場合もありますが、基本は考える必要はありません。
会社を辞めるのはその人の自由であり、辞めることが新たな人生を歩む決断ともなれば誰にも止められるものではないからです。
残された上司の評価が下がるのか、責任が問われるのか、については「基本はなし」。ただ人が抜けた分だけフォロー体制を整えられない、結果目標達成できない、など、そもそも上司の能力不足な面が認められれば、上司の評価が下がることにもつながり、それ相応の評価となる、という影響は出るでしょう。
でもこれは上司自身の問題です。
辞める方も辞められる方もしっかり現実を受け止め、その後の対応を着実にとっていく、ということが何より重要ということになりますね。
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